2008年09月13日

Lovers #22

去って行く一志の背中はまっすぐに伸びていて、何のためらいも無いようだった。

直紀はその後姿を見て顔をしかめた。
「何が“さようなら”だ。あいつ…ずっと俺の後ばかり着いて来てたのに…。朝陽があいつになびく訳無いだろ…。それだったら、朝陽はとっくの昔に俺と別れてるはずだ」

朝陽が一志の気持ちを知ったとしても、俺を振ってまで一志の方を好きになるとは思えない。
(朝陽は先週の夜も俺と過ごしたんだからな…)

とは言え、不安材料がゼロな訳では無い。朝陽は浮気を嫌う。それが分かっているから、都内では絶対に浮気はしてない。他の男から「会いたい」と言われても絶対に会わなかった。

でもだからと言って朝陽一筋というのも物足りない気がして、遠征の時だけ羽根を伸ばしていたのだ。(確かに直紀はかなりモテていたのだ)

(これからは本当に朝陽だけにしよう。少なくとも一志が諦めるまではな…)

直紀はそう考え、それから宇佐美の事を思い出した。
(今夜だけ…。宇佐美もそう言ってたし…。もう約束しちまったしな…。今更断るってのも悪いような気がするし…)

(今夜だけ付き合って、明日からは朝陽だけを大事にすればいいさ…)

宇佐美も確かにいい男なのだが、朝陽と別れてまで付き合いたい訳では無い。
(今夜はお互いにいい夜にして、明日からは宇佐美とは無関係だ。お互いにそうしよう…)

直紀はそう思った。一志の存在は、朝陽の大事さを再認識させてくれていた。今までいささか放り出しすぎていた恋人をもっと大事にしなければ、と思わせてくれた。

「一志に負ける訳にはいかない…。今までずっと俺が勝ってきたんだ」
直紀はそう呟き、彼も自チームへと戻った。

遠征に来た一志と直紀達は、今夜は自由行動を許されていた。
東京へ帰る選手も勿論いるが、殆どは大阪で自費宿泊して明日帰る予定だ。

だから一志が東京へ帰る事を話したら、チームメイトは皆、意外そうに聞き返した。
「えー!?一志、帰るのか?せっかく来たんだし、今夜は一緒に飲みに行こうぜ」

「うん。ごめん。俺もそうしたかったんだけど…。実は急用が出来ちまってさ」

「そうかー。残念だな。でもまた今度も応援に来いよ。お前がいてくれると助かるしさ…」
何も疑っていないチームメイトの明るい声。一志は苦笑した。

「荷物持ちに来いってか?時間が合えばまた必ず来るよ。俺の分まで頑張ってくれよな」
一志はそう言って荷物を持った。今から新幹線に乗れば今夜中に東京へ着く。
(そして朝陽さんに連絡してみよう…)
一志はそう決心していた。

冬の日は短い。駅に着いた頃には外は薄暗くなっていた。新幹線に一人乗り込んだ一志は車窓に写る自分の顔を見ながら、(どうやって朝陽さんに告白をしようか)…それだけを考えていた。
posted by 儚(ほのか) at 17:18| Comment(0) | ★Lovers(朝陽さん) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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